越のルビープロジェクト「おと・ラボ」を体験して

 

20230826otona.jpg

大人・ラボ コンサート ©office PhotoStyle

 

子どもから大人まで盛り上がった5日間

 

 去る8月23日から27日まで、5日間にわたってハーモニーホールふくいで開催された「おと・ラボ」は、フランスを拠点に活動している越のルビーアーティストの大久保彩子さんによるプロデュース企画。「音を通して子どもの創造性を育てる」という考えにもとづき、赤ちゃんのためのオペラ〈ベベ・ラボ〉、5日間のワークショップを通して音を生み出す喜びを体験する〈キッズ・ラボ〉、家族で一緒に色んなアプローチで曲づくりに参加できる〈ファミ・ラボ〉、大人たちが音楽について語り合い、また現代の音楽について学ぶ〈大人・ラボ〉の4つの「ラボ(実験室)」から成ります。また最終日には、〈キッズ・ラボ〉の参加者とプロの音楽家が一緒につくりあげる〈ファイナル・コンサート〉を開催。80人を超える観客が大ホールのステージ上に設けられたアットホームな雰囲気の客席で新しい音楽を楽しみました。

 

 プロデューサーである大久保彩子さんは、これまでフランス各地で「おと・ラボ」を実施してきていますが、4つのラボをまとめてひとつの会場で、5日間という日程で行ったのは今回が初めてだったそうです。

 

“おと”が基本にあって、みんながひとつになれた5日間でした。〈ベベ・ラボ〉の話を〈キッズ・ラボ〉参加者が聞いたり、〈キッズ・ラボ〉の参加者が家族で〈大人・ラボ〉のコンサートに来たり、と様々な連鎖反応が起きたのは、何よりもひとつの会場でまとまった日程を組んで行ったことの成果だったと思います。(大久保)

 

  • 20230823bebe.jpg

    ベベ・ラボ ©office PhotoStyle

  • 20230823familabo.JPG

    ファミ・ラボ #音さがし

 

5日間通して行われた〈キッズ・ラボ〉

 

 

20230824kidslabo.JPG

キッズ・ラボ

20230825kidslabo1.JPG

キッズ・ラボ

 「おと・ラボ」の中心となったのは、毎日午前11時から90分、大ホールのリハーサル室に設けられた専用スペースで行われた〈キッズ・ラボ〉。参加者は小学校1年生から5年生までの12名で、身近にある音を探すことから始まり、家にあるものを使って音を出し、その音から物語をつくってひとつの作品に仕上げました。

 

始まってすぐに“楽しそう”と興味を持ってもらえて、“みんなで楽しもう”という雰囲気が生まれました。2日目には家にあるものを持ってきてもらったんですが、全員がすでに家でどんな音を出すかを決めてきたのには驚きました。また、4日目には保護者の方たちに見学に来てもらいました。子どもたちは家で『おと・ラボ』のことをたくさん話していたそうで、みなさんとても親身になって参加してくださいました。(大久保)

 

 〈ファイナル・コンサート〉では、子どもたちが花道のような形態になって、それぞれ打楽器を鳴らしていく「音のリレー」で観客をお出迎え。実際に私も観客の一人として入場しましたが、「音のリレー」によって誘われる雰囲気がとても心地よく、ステージ上に設けられたシートに座った時にはすでに音楽を聴こうという気持ちが自分の中で高まっているのを感じました。

 

子どもたちが発表した『海と工事現場』は、人に聴かせるということをゴールに、音楽を“作る”ということに集中したワークショップで生まれたものです。対して『音のリレー』の方は、純粋に音を“聴く”ためのエクササイズとして行ってきたもの。方向性の違う二つの体験をファイナル・コンサートの場で発表できたのは、とてもよかったと思います。(大久保)

 

新しいことに挑戦する

 ハーモニーホールふくいとしても初めての試みとなった「おと・ラボ」ですが、「正直、初めに大久保さんから話を伺った時点では、どんなものになるのか想像できなかった」と語るのは、制作責任者である事業部副部長の佐々木玲子さんです。

 

ホールとして、“多様性を受け入れる”というテーマはここ数年ずっと考えてきたことでした。大久保さんの企画はこれまでに見たこともない新しいものでしたが、こういった企画を実施することで“多様性を受け入れる”道筋が生まれてくるのではないかと考えました。(佐々木)

 

 制作を担当した古川真由実さんが企画について聞いた時にまず思ったのは、「楽しそうだな」ということ。

 

これまでもハーモニーホールふくいは教育プログラムに力を入れてきましたが、演奏が上手くなるためだったり、人前で発表するための取り組みはあっても、おと・ラボのような“居場所づくり”の取り組みはありませんでした。それをここでやったらどういう化学反応が起こるのか、また福井のみなさんがどう受け止めてくださるのかに興味がありました。(古川)

 

 小道具の準備から子どもたちのマナー指導(!)まで「現場監督」として活躍していた古川さんですが、これまでホールに来たことがないという方もたくさん足を運んでくださったことに何よりも感動したといいます。

 

みなさん、現代音楽ということに構えずに新しいことを面白がってくださいました。また、コンサートの後で記念撮影をしていらっしゃるご家族もいて、ホールがみなさんの思い出の場所になっているのが本当に嬉しかったです。(古川)

  • 20230829finalconcert1.jpg

    ファイナル・コンサート 音の行進

  • 20230827rehearsal .JPG

    ファイナル・コンサート リハーサル

 

将来につながる「おと・ラボ」の精神

 企画を実施する中で、大久保彩子さんの「どんな人に対しても変わらず丁寧に対応していく姿勢を学べたのは大きい」と語る古川さん。佐々木さんも、“おと”を通して、大人も子どももみんなが「色々な人がいて、色々な考えを聞いてみる」という姿勢を体験できたことが大きな収穫だったと語ってくださいました。実際に「おと・ラボ」を体験してみて、東京でも行われていないこうした新しい企画がここ福井で開催されたことに大いに驚くとともに、ハーモニーホールふくいのスタッフのみなさんの思いや実行力があればこそ可能だった、という思いも抱きました。最後に、今後のホールとしての展望を佐々木さんに伺いました。

 

今後、また「おと・ラボ」を同じ形で開催するかは未定ですが、大久保さんから学んだ手法や思想を、間接的にでも企画の中で繋げていけたらと考えています。「おと・ラボ」を通して、私はもちろん、ホールのスタッフもたくさんヒントをもらったと思うので、これを活かしながらさらに“多様性”の道筋を拓いていきたいです。(佐々木)

 

取材・文 室田尚子