ニューイヤーコンサート2024 トマーシュ・ブラウネル指揮 プラハ交響楽団 ピアノ:牛田智大

 

 

ソリストとして出演する牛田智大氏からお聞きしました。

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 ©Ariga Terasawa

 

 2024年1月7日、プラハ交響楽団と共にニューイヤーコンサートに出演する牛田智大さんは、1999年生まれ。2012年2月、12歳の時に浜松国際ピアノアカデミー・コンクールで最年少1位を獲得し、その1ヶ月後の3月にクラシック音楽のピアニストとしては史上最年少でユニバーサル・ミュージックよりCDデビューを果たします。2018年に開催された浜松国際ピアノコンクールでは日本人歴代最高の第2位を獲得し、その実力を広く内外に知らしめました。2022年3月にはデビュー10周年の記念コンサートを開催。テレビへの出演も多く、人気・実力ともに若手を代表するピアニストとして注目を集めています。

 そんな牛田さんに、これまでに歩んできた道のりを振り返っていただくと共に、音楽家としてこれからどんな活動をしていきたいか、またニューイヤーコンサートで演奏するラフマニノフ作品について語っていただきました。

 

早い時期のデビューから学んだこと

 

──今年でデビュー12年目を迎えられていますが、デビュー当時と比べて心境の変化などはありますか。

 

牛田 デビュー当時はまだ12歳ということもあり、音楽を仕事にする上での基礎的な知識やスキルがなく、大きな舞台で戸惑うこともありました。しかし、早くにデビューしたということは、より深く勉強していくための環境をいただいたということだと思いますし、そこから音楽家としてどうあるべきか、音楽とはどうあるべきか、ということについて考える機会をいただけたことはとても良かったと思っています。

 

──これまでに小林研一郎さんや大友直人さん、広上淳一さん、ミハイル・プレトニョフさんといった著名な指揮者と多く共演してきていらっしゃいます。

 

牛田 指揮者の方から学んだことはとてもたくさんあります。中でも、音楽に対する姿勢を学べたことが大きいですね。若いうちはとかく「売れなければ」と焦ったりするものですが、そうではない深い音楽に対する姿勢を学びました。またオーケストラとの共演は、和声に対する感覚や作曲家のスタイルの理解なども含めて自分に何が足りないのか、成長するために何が必要なのか、ということを学ぶ機会になりました。特に、弦楽器的な呼吸に触れることができたのが重要です。ピアニストはこの「呼吸」という感覚が薄いといわれるのですが、若いうちからオーケストラと共演することでアンサンブルにおける呼吸の感覚が備わったことは、ソロの演奏にも活きていると感じています。

ピアニストとしての姿勢

 

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©Hiroko Chiba

 

──ピアニストとして活動していくために、普段から心がけていらっしゃることはありますか。

 

牛田 演奏家は楽譜からもっとも理想的な一点を探しています。それはこれまで誰も達成したことがない、もしかしたらいつか達成できるかもしれない「真理」と言い換えてもいいかもしれません。この作品が100%の輝きを放ったとしたらどんな音楽が生まれるのだろう、という興味、探究心が、私にとっては最高にして唯一のモチベーションです。「作品が自分を必要としている」という自己暗示を保つことが大切なのです。

 

──作品の「真理」に到達する、という信念が牛田さんを支えていらっしゃるんですね。

 

牛田 楽譜の中にある情報は膨大ですが、無限ではありません。そこに作曲家が込めたものは抽象的で奥深いものですが、必ず正しい選択があると信じてやっています。それは答えのない課題かもしれませんが、そこに取り組み続けられるだけの「美しさ」というものが作品にはあります。その「美しさ」を感じられるうちは、この仕事は続けていけると思っています。

 

「名曲」を演奏するということ

 

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©Hiroko Chiba

 

──長く演奏活動を続けてこられて、同じ作品を何度も演奏する機会も多いと思いますが、モチベーションが下がる、ということはないでのしょうか。

 

牛田 やはり作品に対する興味や感動を保ち続ける必要があると思います。そのためにはひとつの作品に深入りしすぎないことが重要です。もちろん、その作品に十分に深く入り込む時間をつくらなければ演奏はできませんが、そのことと、初めて作品に接した時の初期衝動とのバランスをとることが大切なんですね。その作品を最初に聞いた時にどのような力をもらったのか、ということを忘れないようにしたいですし、案外それが作品の本質を突いていることもあるんです。

 

──今回ニューイヤーコンサートで演奏されるラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」も、大変に人気の高い名曲です。

 

牛田 何回も演奏される中で様々な慣習のようなものが出来上がってしまうことで、作曲家の本来の意図が薄められてしまうという問題があると思います。特に同じ演奏家が何回も演奏していくとその傾向が強まっていく…これは演奏家の生涯かけての命題でもあり、そこからいかにして脱却するかが課題です。この作品は、交響曲第1番が記録的な失敗となり作曲ができなくなるほどに精神的ダメージを受けたラフマニノフが、生きている間に大衆に受け入れられるためにと考えてつくったもの。ですから親しみやすく美しいメロディやハーモニーがふんだんに盛り込まれているのですが、おそらくラフマニノフ自身は本当にこの道でいいのか、という迷いがあったと思うんです。そうしたラフマニノフの迷いが逆に音楽を輝かせている。そういう魅力をぜひ表現したいと思っています。

 

取材・文 室田尚子